秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
車のドアが閉まる。

密室の空間に、社長と二人きり。

「シートベルト」

短く言われて、慌てて手を伸ばす。

その動きすら見られている気がして、落ち着かない。

(近い……)

距離が、近すぎる。

以前なら、ただの移動時間だったはずなのに。

「資料は確認したか」

「はい。こちらにまとめてあります」

タブレットを差し出すと、社長がそれを受け取る。

そのとき、指先がほんの少し触れた。

「……っ」

思わず息が詰まる。

「どうした」

「いえ……何でもありません」

平静を装うけれど、胸の鼓動がうるさい。

車内だけじゃない。ホテルでも、出張先でも――

ずっと、一緒だった。チェックインも、移動も、食事も。

まるで、当然のように隣にいさせられる。

「愛果」

「はい」

名前を呼ばれて顔を上げる。
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