秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
そう言いたいのに、声にならない。

「でもさ、あの人が本気になるタイプには見えないよね」

「分かる。遊びって感じ」

「だよね。結局、結婚は別でしょ」

その一言で、胸が強く締めつけられる。

(……遊び)

ぎゅっと拳を握る。

「まあ、本人たちにしか分からないけどね」

「でも噂にはなるよね、あれは」

「うん、もうなってるし」

軽い調子で言われたその言葉が、妙に重く響く。

(……もう、遅いんだ)

私たちの距離は、周囲から見ても明らかにおかしい。

隠せるようなものじゃない。

それでも――

「愛果?」

不意に名前を呼ばれて、肩が跳ねる。

振り向くと、そこに立っていたのは司だった。

「……社長」

一瞬で空気が張り詰める。

さっきまでの会話が、頭の中で反響する。
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