秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
結局、その日は何も買えなかった。

ただ不安だけを抱えたまま、部屋に戻る。

暗い部屋の中で、明かりもつけずに立ち尽くした。

(……もう無理)

ぽつりと浮かんだ言葉が、やけに現実味を帯びる。

このままじゃ、だめだ。分かっている。

ずっと分かっていたのに、見ないふりをしてきただけ。

「……社長」

名前を呼ぶだけで、胸が痛む。

好きだと自覚してから、何もかもが変わってしまった。

距離も、関係も、気持ちも。

(でも……)

婚約者がいる人。本来なら、近づいてはいけない人。

そこに踏み込んだのは、自分だ。

そして今――

(取り返しがつかなくなるかもしれない)

お腹に手を当てる。

まだ何も分からないのに、そこに何かがあるような気がしてしまう。
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