秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
「俺の知らないところで、全部決めるな」

その声は、怒っているようで――でも、どこか違う。

「少し待ってろ」

そう言って、司は立ち上がった。

「社長?」

呼び止める間もなく、部屋を出ていく。

残されたのは、静寂と――さっきの言葉。

(……終わらせるなって)

どういう意味なのか、分からない。

それでも、胸の奥に小さな熱が灯る。

しばらくして、ドアが開く音がした。

「……戻った」

息を少しだけ乱したまま、社長が戻ってくる。

その手に握られていたものを見て、息が止まる。

「これで確認しろ」

差し出されたのは――妊娠検査薬。

(……買ってきたの?)

こんな短時間で。ためらいもなく。

「俺もいる」

低く、静かな声。

「一人で抱えるな」

その言葉に、胸がいっぱいになる。

怖さは消えない。

でも――

(もう、一人じゃない)

そう思った瞬間、また涙が溢れた。
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