秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
「それでも」

一歩、近づかれる。自然と、後ずさる。

けれどすぐに、腕を掴まれた。

「お前しかいらない」

低く、確信を込めて。

その言葉に、心臓が大きく跳ねる。

(……どうして)

こんなことを言うの。

こんな状況で。こんなふうに。

「一度でも手放す気があるなら、あんなことはしない」

静かな声。でも、揺るがない意思。

「愛果」

名前を呼ばれて、逃げられなくなる。

「お前だけだ」

その一言で必死に抑えていた想いが、全部あふれ出す。

(ずるい……)

こんなこと言われたら。

もう、離れるなんてできない。

「……ずるいです」

涙混じりに、そう呟く。

それでも、視線は逸らせない。

私はただ――その人の言葉に、捕まったままだった。
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