秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
ドアに手をかけた、そのとき。

「後ほど、ゆっくりお話ししましょう」

玲華の声が、背中に届く。

振り返ることはできなかった。

(……やっぱり)

この人には、敵わない。

そう思い知らされながら――私は静かに、会議室を後にした。

ドアを閉めたあとも、足がすぐには動かなかった。

廊下の静けさの中で、胸の鼓動だけがやけに大きく響く。

(離れなきゃ……)

そう思って一歩踏み出した、そのとき。

――「秘書の分際で、」

はっきりとした声が、ドア越しに届いた。

思わず足が止まる。

(……っ)

聞こえてしまった。聞こえてはいけない言葉を。

「随分と自由に振る舞っていらっしゃるようですね」

玲華の声は、静かで、上品で――だからこそ鋭い。

「立場というものを、理解していないのでは?」

胸が、ぎゅっと締めつけられる。
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