秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
ノックもせずに扉を開けた。

二人の視線が一斉にこちらへ向く。

「……失礼します」

息を整える間もなく、言葉を出す。

「婚約者の言う通りです」

空気が、ぴたりと止まる。

「私が社長に近づいたのが、間違っていたんです」

はっきりと言い切る。

声が震えないように、ただそれだけに意識を集中させた。

「愛果――」

社長の声が落ちる。

けれど、見ない。見たら、崩れてしまうから。

「秘書としての範囲を越えていました」

玲華の視線が、静かに私を射抜く。

「不適切だったと思います」

言葉を重ねるたびに、胸が痛む。

でも――止めない。

「ですので……今後は距離を取ります」

やっとの思いで、そこまで言い切る。

これでいい。これが正しい。

(これで、終われる)

そう思ったのに。

「本気で言っているのか」
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