秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
「いえ……ありません」

本当は、ある。

でも――それを言う意味は、もうない。

「ならいい」

短く言って、社長は踵を返す。

その背中を見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなる。

(……守られてる)

そう思ってしまう自分がいる。

周囲のざわめきは、消えない。

むしろ、どんどん大きくなっていく。

それでも――社長は一切動じない。

「社長って、本当にすごいよね……」

小さく聞こえた声。

「普通、あんなことできないよ」

その言葉に、少しだけ視線を落とす。

(……そうだよね)

簡単なことじゃない。

全部を背負って、それでも選んだ。

その覚悟を、私は知っている。

「愛果」

再び名前を呼ばれる。

振り向くと、社長がこちらを見ていた。

「行くぞ」

その一言。まっすぐな視線。
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