秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
迷いなんて、どこにもない。

「……はい」

小さく頷く。周囲の視線なんて、もうどうでもよかった。

(この人が選んでくれた)

その事実だけで――私は、前を向ける気がした。

会議が終わったあとの社長室は、静まり返っていた。

さっきまでのざわめきが嘘のように、音がない。

「……終わったな」

低く落ちた声に、肩の力が抜ける。

「はい」

タブレットを閉じながら、小さく答える。

ドアも閉まっている。外の気配は、もう届かない。

(……二人きり)

その事実を意識した瞬間、胸が少しだけ速くなる。

「こっちに来い」

呼ばれて、顔を上げる。

社長はデスクの向こうではなく、ソファの方に座っていた。

「……はい」

ゆっくりと歩み寄る。いつもよりも、距離が近い。

隣に座ると、ふっと息を吐く音が聞こえた。
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