秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
触れるだけの、優しいキス。

でも、それだけで心が揺れる。

「……社長」

「なんだ」

「……近いです」

やっとの思いで言うと、少しだけ笑われた気がした。

「今さらだろ」

さらりと返される。

確かに、その通りで。言い返せない。

(もう……)

距離なんて、とっくに壊れている。

それでもこうして二人きりでいると、改めて実感する。

(戻れない)

でも――戻る気も、もうなかった。

私はただ、その腕の中で静かに目を閉じた。

「……さっきの話」

静かな部屋の中で、司がぽつりと口を開いた。

腕の中にいたまま、顔を上げる。

「どの……話ですか」

分かっているのに、聞いてしまう。

「最初から、決めていたって言っただろ」

低く落ちる声。視線が、まっすぐに絡む。
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