秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
「ですが――」

「無駄な動きはするな」

ぴしゃりと言い切られて、言葉を失う。

「……はい」

席に戻りながら、指先が少し震えているのに気づく。

怖い、わけじゃない。でも、どこか――

(さっきの、まるで……)

思考が、そこで止まる。

まるで、なんて。そんなはず、ないのに。

「愛果さん」

再び呼ばれて、顔を上げる。

「午後の打ち合わせ、予定通り同行して」

「はい」

「――他の人間に任せる必要はない」

静かに告げられた言葉。

その意味を、考えたくないのに。

(どうして……そんな言い方)

胸の奥に、小さな違和感が残る。

さっきの視線。あの低い声。村田さんに向けられた、あの空気。

(あれ……?)

ふと、思ってしまう。

(今の、もしかして……)

でもすぐに首を振る。そんなはず、ない。
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