闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜
***



大学合格が決まった時から、
私はずっと颯の隣に住もうと決めていた。



実家も隣同士で、ずっと一緒に育った。



だから、
颯が一人暮らしを始めた後の3年間は、

なんだか世界から色が消えたみたいに
味気なかった。



それに、



大好きな颯の近くなら、

慣れない一人暮らしも頑張れると思った。




——だけど。




「ねぇ、見て。あれ、佐伯先輩じゃない!?」

「うそ、隣の子誰? 彼女!?」





彼は、想像以上に有名人だった。





登校中もあちこちから視線を感じる。


当の本人は、そんな周囲を気にも留めず、
まっすぐ前だけを見つめたままゆっくりと歩いていた。



(なんだか完璧な「王子様」の隣にいるのが私だなんて、嬉しいような申し訳ないような……)



「あの……教室までついてきてもらわなくても大丈夫だから……ね?」

「迷子になられたら俺が困るんだよ。……ほら、お前はこっちを歩け」



颯がふいに私の肩を掴み、
自分の左側へと移動させる。



「え、なんで?こっち?」

「お前は声かけられても、スルーできないだろ」



そう言うと彼は、私の右側を塞ぐように
ぐいっと自分の方へ引き寄せた。



(もう、相変わらず過保護なんだから……)



そんな時だった。




「佐伯先輩!」




背後から元気な声が響く。




「今度のフットサル、助っ人来てくだ——」




男子が横に並んだ瞬間、目が合った。




「えっ……彼女っすか!?」

「!!」




否定しようと口を開いた瞬間、
別の男子たちが颯を囲んだ。




「よっ、イケメン!今日も朝から大変だね〜……って、おい、まじかよ!」

「颯、彼女できたん!?」




颯は笑うだけで否定も肯定もしない。




「ち、違います……!」


「エース、探してたぜ。次の試合出てくんない?」
「それよりサッカー部の飲み会、いい加減来るよな!?」




彼に吸い込まれるように
次々と寄ってくる男子たちに、

私の声はすぐに掻き消された。





「気が向いたらな」





けれど颯は、器用に受け流していく。




あんなに皆に求められているのに、
彼は一度も足を止めない。


私の歩調を崩さないように、
ずっと合わせて歩いてくれていた。




「まだ朝なのに……もう疲れたよ」




私が肩を落としぼそっと呟く横で
ははっと軽い笑いが響いた。




「お前もこの大学の洗礼を受けたな」

「なんで私まで……第一、お兄ちゃん過保護すぎ——」




言いかけたその時。




突然、頬が”むぎゅっ”と掴まれた。




「なんか言ったか?」




意地悪そうに笑う目。




「は……はなして……」




私がさらに目を細めながら返すと、
彼は笑いながら手を離した。





桜の花びらが舞い落ちる道を、
並んで歩く。




ようやく同じ大学で、
同じ時間を過ごせる。


それは嬉しいことだった。





けど。





——この時、私はまだ知らなかった。





私が自ら「隣がいい」と言い出す
何ヶ月も前から、

彼がこのマンションの情報を
私に吹き込んでいたことも。




彼がいつの間にか私の部屋の合鍵を、
自分のキーホルダーのように平然と

付け加えていることも。





そして、昨夜。





——もう二度と、

お前を外の世界になんか出さない。





あの声が、

夢でも幻聴でもなく、




彼の本心だったことも。



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