闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜
彼の右頬には、青色のペンキが
擦ったようについていて、
思わず、ふふっと小さく笑いが漏れた。
「どうしたの……?」
「碧くん、ペンキが顔についてる」
私が自分の頬を指先でつついてみせると、
彼は「え、まじ?」と、
さらにそこに青色をつけた。
「取れた?」
純粋に聞いてくる彼をもっと見たくなって、
私は笑いながらただ「ううん」とだけ言う。
すると、「……あ」と
碧くんが私の顔を覗き込んだ。
「美桜ちゃんもついてる」
「え、どこ……?」
私が自分の頬を指先で探っていると、
碧くんがふっと笑う。
その瞬間、彼の片手が私の顔に伸び、
ベタッと擦り付けるように
彼の手のひらが、ゆっくりと私の頬をなぞった。
触れた瞬間の、優しい感触。熱い手のひら。
頬に広がる湿った感覚に、
私は「……あ!」と声を漏らした。
それを見た碧くんが、
にっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「——これで一緒」
ペンキをつけた彼の眩しい笑顔に、
私の心臓が、静かに鳴る。
私は手に持っていたハケ先のペンキを、
碧くんの左頬にちょんとつけた。
「お返し!」
「お、やったな」
「ふふ、碧くん顔じゅう真っ青だよ」
二人で顔を見合わせて笑う。
飾らない彼といる時間は、
明るくて、対等で、自由で、眩しくて。
颯が祭りで耳につけた、
痛みを伴う重い「印」に対して、
碧くんが頬につけたのは、
洗えば落ちるほど軽やかな、
温かい「絵の具」だった。