闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜
颯は、私が一口食べるごとに
愛おしそうに私を見つめる。
「手、止まってるよ……?」
「ああ、悪い」
暖かい部屋、最高のご馳走。
そして、
私を世界で一番大切に
扱ってくれる「王子様」。
ここにあるのは、
何の苦労も不安もない、
”完成された幸福”だった。
——最高に甘い、
デザートを食べている時みたいに。
「……ねぇ。私、こんなに幸せすぎていいのかな」
「いいんだよ。お前を幸せにするために、俺は生きてるんだから。……今日は本当に、最高の日だよ」
——でも。
そんな「夢のような幸せ」は、
長く続くはずはなかった。
私の膝の上に置いたスマホが、
そのことを静かに教えていた。
『俺、今、美桜ちゃんがいるホテルの噴水広場でバイトしてる。サンタの格好でチラシ配り。……5分だけでいい。渡したいものがあって、来れないかな?』
碧くんだ。
彼は、この華やかな世界の裏側で、
凍えるように外で働いているという。
その「泥臭い現実」が、
私をこの甘い夢から引き戻そうとする。
(どうしよう——)
「……美桜?」
颯が、手が止まった私の顔を
確認するように見た。
私は気づかれないように、
笑いながらスマホ伏せ、再びフォークを握り直す。
「……これ、すごく美味しいなって思って」
「お前のために全部、用意したものだから」
次々とお皿が運ばれてくる。
それを口にするたび、
私の罪悪感は膨れ上がっていった。
(………いやでも。今はだめ)
目の前で微笑む、こんなにも
尽くしてくれる彼をもう一度裏切るなんて——
だけどあの時。
——美桜ちゃんの幸せはどうなの?
全部決められて、それで幸せなの?
碧くんが、紅葉の舞う中
放った問いかけ。
その言葉が、
再び私の気持ちを揺るがせ——
動かせようとする。
「……ごめん、お手洗いに行ってくるね」
——たった5分。5分だけだ。
碧くんの誠実さも、
私に「自由」を教えてくれる、
あの眩しい笑顔も。
無駄にはできなかった。