おれが、おまえを、可愛くしてやる。
「おれはきみの倫理観を調教する立場にはないが……しかし」再び、眉間の皺を摘まみつつ浅葱さんが座る。呆れさせちゃったかな。「からだの関係を持つ、ということはつまり、本気で相手を愛していることが前提ではないか? ……現時点でおれたちはそういうこころの交流はないと思われるが」

「だから、……一度だけですって。……知人に聞いたことがあるんですよ。仕事が出来る男性はあちらのほうもお上手だと。で。一度きりの人生、千載一遇のチャンス。経験しておくのも、悪くはないと思ったんです。わたしの立場って割と面倒くさいですし、さくっと捨てておきたいなぁと。……あ。心配しないでください。一度関係を持ったからって、その後もしつこくつきまとうことなんかしません、公私混同もしませんから。とっとと忘れます。去る者は追わない主義ですわたし」

「……自慢するところじゃねえだろ」ふー、と、大きくため息を吐き、ネクタイに手をやる浅葱さん。黒のネクタイが緩んでいてセクシーだ。「……っていうか。どんな男連中に出会ってきたら、んな価値観が育つんだよ。意味分かんねえよ。
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