おれが、おまえを、可愛くしてやる。
 話は前後するが。おれの両親はおれが小学生の頃に離婚しており。おれは、母親に引き取られた。母は年中常に忙しく、自身のお手入れはおろか、子どものケアにすら手が回らない状況のようだった。

 父に引き取られた兄や、父に会うことはあった。年に一回程度かな。個人的におれは、兄と連絡を取ることはなかったが――高校卒業後の進路を考える際に、兄に相談した。自分が美容の道に進んでいいのか、迷いがあった。男性の美容師は珍しくもないが、男性のメイクアップアーティストは珍しい時代だった。だから。美容以外の道が断たれていいものか――他に選択肢がある大学などに進学した方がいいのではないか? おれは人知れず、悩んでいた。

 一方兄は、高校を中退し、パリに単身移り、デザイナーとして活動していた。ファッションを極めるということは勿論美容への知識も必要となる。将来について、ファッションに無頓着な母に相談したとて『安全な道に進みなさい』とアドバイスされるがオチで、美容の道をひた走る兄に、先輩としての助言が欲しかった。

 兄は、こんなふうに言った。

『人生は一度きりなんだよ。後悔のないように生きなさい』
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