おれが、おまえを、可愛くしてやる。

◆#28. 浅葱蓮二、困惑する。

「そんな大事なことを、……なんで兄貴に言わないんだ。こういうときこそ、あいつがついていなけりゃ、駄目だろ」

 屋上にてようやく琉実の姿を認めたとき、おれは少なからず動揺していた。てっきり……幸せなものとばかり思っていた。

 二人と会う機会を敢えて断っていた。もう、過去の恋に煩わされるのは沢山だ。兄貴がパリを拠点に活動している、琉実も外国と日本を行ったりきたりだという事情を利用して、おれは、兄貴とは連絡を取ったが、夫婦ワンセットで会うことはなかった。望んでもいなかった。

 だが――

 真冬のさなか、薄着の琉実は、寒そうだ。一瞬ジャケットを貸してやろうかという配慮も働いたが、おれはそれを抑制した。……これは、望海に合わせて選んだタキシードだ。これを琉実に渡すということは、おまえへの裏切り行為に他ならないと思っていた。

 それにしても、……そんな大変なことがあったとは。気づかず、おれは……呑気に過ごしていた。悔やまれる。
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