おれが、おまえを、可愛くしてやる。
「今日は、……彼が二十周年を迎える、特別な日なの……。そんな素晴らしい日を、わたしは、汚したくはない。彼がどれだけ努力してきたのか……一番近くではなかったけど、わたしはそれを見ている。おめでたい日に……苦悩なんか、与えたくないの」
「でも。夫婦なんだろきみたちは」たまらず声を荒げた。「おかしいじゃないか。……あいつが後でそのことを知ったらどう思う? 自分が無能だと苦悩するに決まっているだろう。辛い報告こそ早くすべき――」
そこで言葉を失った。顔色を悪くした琉実が……涙を流していた。
「ごめんね……れんちゃん」昔の呼び方で彼女はおれを呼んだ。「自分ひとりで耐えるべきなのに……いまは、あなたの力が欲しい。今日だけでいいから……わたしを、支えて欲しいの」
「……琉実」静かにおれは首を振った。「おれには愛するひとが……」
しかしながら、ふと彼女の手元に目を向けたときに、おれはぎょっとした。手首の内側に傷が走っていたからだ。……琉実は、昔っから明るく健康で誰にでもやさしくて。そういう……苦悩とは無縁の女の子だと思い込んでいた。いや――思い込もうとしていただけなのかもしれない。
「でも。夫婦なんだろきみたちは」たまらず声を荒げた。「おかしいじゃないか。……あいつが後でそのことを知ったらどう思う? 自分が無能だと苦悩するに決まっているだろう。辛い報告こそ早くすべき――」
そこで言葉を失った。顔色を悪くした琉実が……涙を流していた。
「ごめんね……れんちゃん」昔の呼び方で彼女はおれを呼んだ。「自分ひとりで耐えるべきなのに……いまは、あなたの力が欲しい。今日だけでいいから……わたしを、支えて欲しいの」
「……琉実」静かにおれは首を振った。「おれには愛するひとが……」
しかしながら、ふと彼女の手元に目を向けたときに、おれはぎょっとした。手首の内側に傷が走っていたからだ。……琉実は、昔っから明るく健康で誰にでもやさしくて。そういう……苦悩とは無縁の女の子だと思い込んでいた。いや――思い込もうとしていただけなのかもしれない。