未完の恋、指先で溶かして
「本当は馬鹿な事ってわかってるから言いたくなかったんだけど、真紘は別れようって1回も言わなかったの」

「どういうこと? じゃあ、何で別れることになるわけ?」

「少しは引き止めてくれるんじゃないかって期待して、勢いで私がもう別れたいって言った。その時の結果なんて言わなくても分かるでしょ?」


 佐野は、引き止めなかった。真広も、口にしてしまった以上は、もう引くに引けなかったということか。

 やり場のない真実を飲み下すように、俺はアルコールを口に運んだ。


「馬鹿だと思うでしょ。私だって後悔してるよ。あんなこと言わなきゃよかったって」

「まあ、そもそも告白もできない俺に何も言う資格はないから」

「何で言わないの?」

「今言っても困らせるってわかってるから」


 こんなことなら、もっと早く伝えておけばよかった。

 想いなんて、大人になればなるほど、喉に閊《つか》えて出てこなくなるだけなのだから。


「佐久間くんも不器用、だよね」

「真広だけには言われたくないなあ」

「わかってるってば」

「慰めになんないし、ちょっと無神経なこと言うけど、俺は別れといてよかったんじゃないって思うよ」

「…なにそれ」

「付き合ってもらってるって思いながら付き合うの、嫌だったんじゃない?佐野の気持ちなんて分かってたでしょ」


 俺の言葉に、彼女はわかりやすく黙り込んだ。

 終わりたくないという未練と、彼も自分も解放してやりたいという、そんな葛藤があったと思う。

 相手の幸せを願えば、自分の願いは叶わない。かといって、形だけの関係を繋ぎ止めても、その先に幸福なんてない。

 強引に手に入れた淡い幸せは触れた瞬間、一瞬にして溶けて消えてしまう。
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