未完の恋、指先で溶かして
「佐野と連絡は?」

「取った。会社辞めたって聞いたから」

「情報早いな。今こっちで働いてるのは知ってる?」

「え?知らない」


 目を丸くして驚く真広に、俺は苦笑いを返した。

 そもそも、佐野は自分から近況をべらべらと話す男じゃない。あいつに関する噂が広まるとしたら、それはすべて、放っておけない周囲の人間が勝手に騒いでいるだけ。

 真広は付き合っていた当初から、常に不安を宿していた。佐野は形式上の関係こそ築いてはいたものの、恋人と呼べるような温かな振る舞いは見せなかった。

 それでも、真広は関係を終わらせようとはせず、ひたすら耐え忍んできたけれど、その結果、待っていたのは佐野からの終止符だった。

 無理に繋ぎ止めた関係は、やはり長くは続かない。
 それなのに、彼女は今もまだ、佐野に好意を抱き続けている。


「何でそんなに好きなの?」

「何でって、真紘は私が一番つらかった時に傍に居てくれたから」

「一番つらかった時?」

「ちょうどスランプだった二年前に、離れずに傍に居てくれたの。何も言ってはくれなかったけど、それで十分だった」

「別れたのって佐野に振られたから、だったよね」


 そう問い掛けた時、真広は少しだけ苦笑いして、首を横に振った。
< 9 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop