`未完の恋、指先で溶かして
「どれ飲む?カシスオレンジとかもあるよ」

「え?」

「好きじゃなかったっけ?」

「あ、まあ、うん」


 何度か数えるほどしか一緒に飲んだことはないのに、彼が私の好みを把握しているなんて、思ってもいなかった。

 これ、好きだったよね?と、こちらの嗜好を拾い上げてくれるような男性は、これまでの私の周りには一人もいなかった気がする。

 男性と飲む機会自体は多い。撮影の打ち上げや仕事の付き合いなどに関わるタイミングはいくらでもあったから。

 過去に交際していた真紘でさえ、私のことを見ていてくれたことなんてなかった。

 それなのに、お互いに想いを寄せ合うはずのない人が、私の嗜好に気づいてくれるなんて皮肉なものだ。


「佐久間くんって本当によく人の事見てるよね」


 佐久間くんは今は飲まない缶チューハイを冷蔵庫にしまい、戻ってきたところで私の隣に腰を下ろした。


「癖、みたいなもん。職業病」

「え?」

「このくらいの年齢の人は、どんなのを好む系統にあるのかな、とか」


 彼は、広告戦略を立てる仕事をしている。どの層に向けて何を届けるかを読み解くのが彼の仕事。職業病とは、そういう意味だと思う。

 そこに特別な意味などない。そう分かると、何かを期待していたわけではないはずなのに、ふっと肩の力が抜けていくのを感じた。
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