未完の恋、指先で溶かして
「佐久間くんさ」

「ん?」


 そう声を掛けて聞くべきか、どうか悩んだ。

 どうして今日、誘ってくれたのか、って。

 彼の事だから、単なる性欲とかで、今日この場に誘ってくれたわけではないような気がする。だけど、その確信が持てなくて、膝の上で組んだ指先が少し震えた。

 なかなか聞けないでいると、佐久間くんが私の顔を覗き込んで「どうかした?」と問いかけてくる。

 あまりこんな風に密室空間で二人きりになることはないから、ほんの少しだけ緊張した。静まり返った部屋で、自分の心臓の音が、耳元まで響いてきそうだった。

 佐久間くんの顔を見ると、少し首を傾げて、逸らさずにこちらを見つめている。逃げ場のない視線に、息が詰まる。


「今日、何で誘ってくれたの」

「……」


 そう問いかけると黙る佐久間くんの顔をじっと見る。

 問いかけた後、彼はふっと目を細め、笑みを零していた。


「泣きそうな顔してるのに、放置できないでしょ」


 そう言われ、ただの優しさかと思った。

 誰にでも優しい佐久間くんだから、私に対しても、特別な意味はない。どこかで期待をしていた自分がいて、そんな自分を馬鹿みたいだと思った。

 どう答えてほしかったなんて明確な答えは出ないけど、他の女性と同率の扱いで、ただの遊び相手として呼ばれたのだとしたら、酷く惨めで気分が悪い。


「…なんだ、特に意味はないんだね。女性に優しい佐久間くん」


 そう言い放って、ソファの背もたれに背を深く預け、ほんの少し笑みを零す。

 ほんの少しだけ安心したような、どこかがっかりしたような、自分でもよくわからない気持ちでいると、不意に、佐久間くんの顔が急に近付いた。

 そのまま何が起こったかも分からず、気付いた時には唇が重なり合っていた。

 目を閉じることもできず、目を見開いて佐久間くんを見ていた。少しの触れ合いの後に少し離れ、見つめあうと、そのまま静かに額を合わせてきた。触れ合う肌から、高い体温が伝わってくる。


「…誰にでも、こんな誘いしてると思う?」


 少し掠れた声で静かなそんな問いかけ。
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