未完の恋、指先で溶かして
 結局、俺は最終的な判断を森山に委ねることに決めた。

 彼女なら、自分自身で納得のいく答えに辿り着き、彼女にしか書けないコピーを形にするはず。その確信に、微塵の疑いもなかった。新人の頃から、彼女の泥臭いほどの仕事ぶりを誰よりも近くで見守ってきたのは、他ならぬ俺だから。

 任せると告げた時、彼女はチームの和を乱すのではないか、方向性を変えて困惑させないかと、最後まで周囲を気遣っていた。だけど、俺は迷うことなく「大丈夫」と言い切った。

 このチームなら、森山の意見がいいと思えば、柔軟に受け入れてくれると信じていたから。


「ちゃんと説明したらわかってくれる。一度いろいろな方向性で考えて、森山らしいコピーにするのが一番だと思う」

「…佐久間さん、ありがとうございます」


 彼女は深く頭を下げ、「失礼します」と背を向け立ち去ろうとした。その背中に、俺は思わず「森山」と声をかける。振り返った彼女に、ずっと伝えたかった言葉を贈った。


「コピーライター似合ってる。あの時推薦して良かったって思うくらい、いい仕事してるよ」


 その瞬間、彼女は大きく目を見開いた。それから、溢れそうになる涙を必死に堪えるように、ぐっと眉間に力を込めて険しい表情を作る。


「…ありがとうございます」


 絞り出すような声でそう言い残すと、彼女は立ち去っていった。

 あの素直な反応も、一生懸命に自分を律しようとするところも。そのすべてが、どうしようもなく好きだと思ってしまう。
 
 重い溜息を一つ吐き、俺は再びパソコンの画面へと向き直った。

 想い人が、いつでも手の届く距離にいて、これほど眩しい姿を見せつけてくる。そんな環境で、諦めなんてつくはずがなかった。
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