未完の恋、指先で溶かして
「すごくいいと思う」

「…へ?」


 俺の簡潔な評価に、森山は素っ頓狂な声を上げ、間抜けな表情でこちらを見つめた。

 自信満々に持ってきたくせに、いざ肯定されると、まるで通ると思っていなかったとでも言いたげな反応。そんな彼女がおかしくて、つい吹き出してしまう。俺は改めて、言葉を選んで伝えた。


「凛とで自分を律し、甘くで自分を慈しむ。リズム感も、すごくいい。余計な言葉もなく、それでもよく伝わる」


 そう言いながら、机の上に資料をそっと置いた。

 文句の付けようがない。この案なら、会議でも問題なく通るだろうなという、確信があった。

 森山は少し泣きそうな顔をしながら、「ありがとうございます!」と満面の笑みで礼を口にする。俺が認めただけで、まだ本番の会議が通ったわけでもないのに、彼女はそれほどまでに喜んでいた。


「次のブレスト会議、楽しみだね」

「はい!」


 もし、彼女の案が通ったら。

 その時は俺も、ほんの少し勇気を出して、彼女に近づいてみようかと思った。

 俺の場合は、ただの負け戦に突っ込むだけかもしれない。それでも、何もしないままでは一生、悔いが残る。

 その悔いを残さないために動くくらい、きっと罰は当たらないはずだ。
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