未完の恋、指先で溶かして
 そんなことがあった日の夜、真広がやってきた。

 今日は休みだったからなんて言いながら、当然のような顔をして俺の部屋で料理をしている。

 いつものように鼻歌まじりで上機嫌なその姿も、最近ではすっかり見慣れた光景だった。


「何か俺にできることありますか、お姉さん」


 茶化すように横に並ぶと、彼女は少しだけ吹き出して「何、その言い方」と笑った。


「いつもキッチンに並ぶと、俺の家なのに座っててって言うから」

「キッチンは広く使いたいからね」

「俺は邪魔ってこと?」

「そうは言わないけど、女には自分のテリトリーがあるのよ」

「男にだってあるんだけどな」


 そんな軽口を叩き合っていると、自然な動作で皮のついたジャガイモを渡された。皮を剥けという合図だと察し、苦笑しながらそれを受け取って水洗いする。

 言葉を交わさずとも伝わる瞬間がある。彼女との時間は、気が楽で助かる。

 包丁を握り、芽を取り、皮を剥き始めた。


「佐久間くんって、料理できるの?」

「俺、割と何でもできるからなあ」

「うわ、嫌みな言い方」


 真広のわざとらしい嫌悪感に、思わず笑みがこぼれる。

 彼女には「佐久間くんって、食生活が終わってるよね」と酷評されているが、大学時代から一人暮らしだし、飲み会続きで金が尽きれば自炊もこなしてきた。

 こう見えて、やればそこそこできる方だと思う。
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