未完の恋、指先で溶かして
 ようやく食べ終えた真広が食器を下げ、俺の隣に並んだ。そして当たり前のように布巾を手に取り、洗い終えた皿を拭き始める。


「座ってていいのに」

「一緒に作って、一緒に食べたし、一緒に後片付けでしょ」

「俺何もしてないよ」

「いいから」


 また小さな口論をしながらも、二人で笑って作業を続ける。

 ふと会話が途切れ、キッチンには食器が触れ合う音と、水が流れる音だけが響いた。


「そういえば、今度好きな子とご飯行くことになってさ」

「え、そうなの?」

「まあ、そんな微笑ましいものでもなくて、相手からしたら仕事の延長戦って気持ちかもしれないけど」


 なんとなく、この話は真広にしておくべきだと思った。

 俺達は身体の関係があるわけでもないけれど、純粋な友人というわけでもない。元々は、互いの寂しさや、叶わない恋の傷を舐め合うようにして、一緒に過ごすようになった。

 だから、何らかの進展があるときには、彼女に報告するのが筋だという気がした。


「…告白でもするの?」

「…迷ってる。悔いを残さないなら、するべきだけど、関係が壊れるんだろうな、とか、避けられるんだろうなって思ったら、ちょっと怖いな」

「佐久間くんでも、そういうところあるんだ。決めたら一直線かと思ってた」

「俺を猪か何かだと思ってんの?」

「そうじゃないけど、少し安心した。恋愛に対して弱くなるのは、私だけじゃないんだなって」


 そう言ってわずかに微笑む真広の横顔を、俺は盗み見た。

 その表情がどこか寂しげで、胸の端に小さく引っかかった。
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