未完の恋、指先で溶かして
 訪れたのは、俺の行きつけの居酒屋だった。

 暖色系の明かりが灯る店内には、客達の話し声や食器の触れ合う音が程よく響いている。静かすぎない活気が心地よく、何より料理が美味い。そのうえ手頃で店員の愛想もいいから、俺はここを気に入っている。


「ここ、一人でもよく来るんだ。だし巻き玉子がまじで天才」

「そうなんですね。落ち着く雰囲気で既に好きです」

「気に入ってくれて嬉しいよ。連れてきた甲斐がある」


 そう言いながら、壁のハンガーを手に取って彼女に渡した。互いに上着を脱いで並べると、俺のものに比べて何もかもが小ぶりな彼女のジャケットが、隣で揺れている。

 そんな些細なことにさえ愛らしさを感じてしまうのは、我ながら重症だと思う。

 軽く咳払いをして、見慣れたメニューを彼女の前へ広げた。


「飲む?」

「あ、じゃあ少しだけ」

「好きな物食べな?お祝いだから俺の奢りね」

「本当にいいんですか?お店の料理食べ尽くすかも」

「食べすぎでお腹壊さないようにね」


 森山の冗談に笑いながら言うと、彼女は俺につられて楽しそうに笑った。

 一杯目は、お互いに生ビールを注文。料理は、例のだし巻き玉子を筆頭に、枝豆、たこわさ、白子ポン酢。さらにはフライドポテトに塩キャベツ、唐揚げと、居酒屋の定番を一通り頼んだ。

 間もなくして、店員が器用にお盆を操り、生ビールを運んできた。ジョッキの中では、黄金色の液体と真っ白な泡が七対三の黄金比で重なっている。

 目の前に置かれたジョッキは見るからに冷えていて、表面には細かな水滴が浮いていた。それを手に取ると、自然に視線が重なる。


「じゃあ、会議と、今週もお疲れ様でした。乾杯!」

「乾杯!」


 ジョッキがカチン、と小気味よい音を立ててぶつかった。そのまま口元へ運べば、喉を抜ける刺激的な炭酸と、心地よい苦み。冷たい液体が喉を通るたびに爽快感が走り、一週間分の疲れが洗い流されていくようだった。
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