未完の恋、指先で溶かして
『何、言ってるんですか』


 そんな怒った声を出すくらいなら、早く自分のものにすればいい。
 何を、いつまでうじうじしているんだよ。

 そう、声を荒らげたいのは、こちらのほうだった。


「…迎えに来てやれよ。この子が一緒にいたい相手は俺じゃないってわかってるんだよ。こっちも」

『何、言って…』

「でも、来ないつもりなら、森山が弱ってる所に漬け込む気。分かったら三十分以内で来いよ。来ないなら、本当に連れて帰って…、俺も本気出すから」


 ここんな叶わない恋、厄介で仕方がない。
 だから、早くどこかへ持ち去ってくれよ。
 いっそのこと、俺の手が絶対に届かないところまで。

 中途半端に手が届きそうな距離にいるから、無駄な期待をしてしまう。期待したところで、届くはずがないと知っているのに。

 早く幸せになって、「やっぱり俺じゃなかった」と完全に諦めさせてほしい。


『…今、行きます』


 短く告げて、通話が切れた。

 その言葉を聞いた瞬間、心から安堵している自分がいた。


「そろそろ、幸せになれそうじゃない?森山」


 眠っている彼女にそう語りかけ、優しく頭を撫でる。
 俺もようやく、終わらせることができる。そう思った。

 この想いが消え去るまでには、まだ時間がかかるだろうけれど、完全に叶わないのだと自分の中で折り合いをつけられたことで、胸の奥が少しだけ軽くなった。

 同時に、悔しくて、苦しくて──。
 そんな、名付けようのない感情が、静かにこみ上げていた。
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