未完の恋、指先で溶かして
* * *


 佐野が森山を連れて帰り、一人になった。

 夜風に吹かれながら歩く帰り道、俺は真広に電話を入れていた。仕事中かもしれないという考えも頭をよぎったが、ダメ元だった。

 珍しく、自分でも嫌になるほど弱り切っている。
 こんな夜に、一人きりで過ごすのは耐えられなかった。

 しばらく鳴らし続けるとコール音が止まり、『も、もしもし!?』と、少し慌てたような声が響いた。


「今暇?」

『そんな大学生みたいな問いかけ、こんな時間にしないでよ! お風呂入ってたの!』


 彼女の突き放すような、でも賑やかな声を聞いて、不思議と強張っていた心が少し和らいだ。「そっか」と短く返すと、電話の向こうでほんの少しだけ間が開いた。


『佐久間くん?』

「ん?」

『何かあった?』


 真広の直感に、何と答えればいいのか迷った。
 佐野のことを話せば、彼女だって傷つくはずだから。

 その話を無理にする必要もないと判断し、俺は少し笑いながら「失恋した」と告げた。

 告白して振られたわけではないけれど、振られたも同然だった。目の前で恋敵への想いを聞かされ、その男が彼女を迎えに来たのだから。

 真広も返す言葉に迷っているのか、沈黙が続く。


「慰めてよ、真広」


 冗談半分、本気半分。

 他の誰かでこの傷を塞ごうとしている自分は、きっと最低だ。自覚しながらも、俺はほんの少し縋るような気持ちで、彼女に言葉を吐き捨てていた。
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