未完の恋、指先で溶かして
* * *


 帰宅して風呂を済ませ、一息ついた頃、真広は宣言通り、両手いっぱいの荷物を抱えてやってきた。


「何をそんなに買ったわけ?」

「明日の朝ごはんも! と思ってさ。買いすぎちゃった。明日は卵サンドだよ~」


 そう言って屈託なく笑い、彼女は家の中に上がってくる。

 どうやら、明日の朝まで一緒にいてくれるつもりらしい。

 こちらの都合で呼び出したようなものなのに、どこまでも温かい真広に、言葉が詰まった。

 俺は衝動のまま彼女を引き寄せ、強く抱きしめた。


「ちょ、っと、佐久間くん?」


 困惑させているのは分かっている。

 だけど、こんな夜にそばにいてくれて、何も聞かずにいつも通りでいてくれる。そんな彼女の底知れない優しさに、俺は救われていた。

 真広は戸惑うようにしながらも、ゆっくりと俺の背中に腕を回し、あやすようにぽんぽんと叩いた。


「ありがとう、真広」


 そう零すのが精いっぱいで、彼女の頭を撫でながら抱きしめ続ける。すると、真広は俺の腕の中で小さく「…うん」と頷いた。

 やがて、わずかに身体を離して見つめ合う。

 真広は俺の唇に一瞬視線を落とし、それからゆっくりと、拒むようにではなく、受け入れるように目を瞑った。

 その仕草に、思わず目を見開く。明らかな、誘いだった。

 俺はほんの少し、自問自答した。

 ここで手を伸ばしたとして、俺は一体、どういうつもりで彼女を抱くのか。

 答えの出ないまま、彼女の頬にそっと手を添え、親指の腹でその柔らかな肌を優しく撫でた。
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