未完の恋、指先で溶かして
 翌朝、目を覚ますと、既に隣に真広の姿はなかった。

 体温の残る形跡だけが、彼女がそこにいたことを証明している。

 枕元には、昨夜脱ぎ捨てたはずのTシャツが丁寧に畳んで置かれていた。それを再び身に纏うと、俺はゆっくりとベッドから降り、寝室を後にした。

 キッチンの方から、小気味よい炒め物の音が聞こえてくる。向かうと、真広が菜箸を動かし、フライパンの中身をかき混ぜていた。


「…おはよ」


 声を掛けると、真広はハッとしたようにこちらを振り向いた。俺と視線がぶつかるなり、彼女は耳たぶまで赤くして「……お、おはよう」と返した。

 確実にお互い、いつも通りではいられない。じれったい空気感に苦笑が漏れ、俺はひとまず顔を洗いに洗面所へ向かった。

 やってしまった、と思う。確かに以前、自分からこんな関係になることを提案をしたことはあったが、あのとき死ぬほど反省したはずだった。それなのに、誘われるまま、流されるままに乗っかってしまうなんて、少しも成長していない。

 鏡の前で自己嫌悪に浸りながら、歯を磨く。

 これから、真広とどう向き合うべきだろうか。昨夜のことをなかったことにして、今まで通り過ごすなんて、もう不可能だ。

 彼女も雰囲気に飲まれただけなのか、それとも、何らかの感情を込めていたのか。それによって、俺の出すべき答えも変わる。

 思考を巡らせながら、歯を磨き、顔を洗った。冷たい水で無理やり意識を切り替え、俺は再び、真広の待つキッチンへと向かった。
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