`未完の恋、指先で溶かして
「…そ、っか。まあ、タイミングがあるのかもね」

「幸せを噛み締めることに必死でした…」

「その段階に行くの早くない?」


 どうして何も解決していないのに、幸せを噛み締められるのか。

 普通は想いが通じ合ってから、受かれるもんなんじゃないの?と、呆れ混じりに苦笑いしていると、森山はますます気まずそうな表情を浮かべた。

 その後、彼女はひとつ咳払いをし、「はい、これ!」と小さめの箱を俺に差し出してきた。


「これは?」

「あの飲み会の時渡そうと思ってたのに、渡しそびれたんです。遅くなりましたが、今回の案件もすごくお世話になったので」

「ああ、いいのに。ありがとう」


 礼を言いながら、その箱を受け取る。中身はどうやらチョコレートのようだった。


「そう言えば、佐野は現場だっけ?」

「はい、朝からずっといないです」


 その瞬間、彼女は明らかに寂しそうな表情を見せた。

 いつもなら、ここできっと何か慰める言葉のひとつでも掛けていただろう。だけど、今の俺は何も言わなかった。


(…俺の仕事じゃないな)


 そう思い、俺は手元の缶コーヒーを口に運んだ。


「戻りますね、ありがとうございました」

「お疲れ様」


 短く声を掛けると、俺は窓の外へと目を向けた。

 不思議と、どこかすっきりした感情もある。告白できなかったことは未練かもしれないけれど、思っていたほど引きずってもいない。

 諦めきれたかと言われれば、そうじゃないけれど、俺はもう諦める努力をしていかなければならない。
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