`未完の恋、指先で溶かして
真広の気持ち
 柄にもなく落ち着かない気持ちで、真広を待っていた。

 いつも通りに帰宅し、手を洗い、着替えを済ませてからソファに座り込む。

 かつて真広と会うのに、これほど落ち着かない気持ちになったことは一度もない。

 しばらく待つうちにインターホンが鳴り、モニターで真広であることを確認する。オートロックを解除し、玄関の鍵を開けておいた。

 じっとしていられず、リビングから玄関へと繋がる廊下の壁に背を預け、彼女が上がってくるのを待つ。

 やがて、ヒールが地面を打つ音がうっすらと響き、玄関のドアが開いた。

 そこにいた真広は、俺の姿を見つけると驚いたように目を見開いた。


「よっ」

「……よっ」


 声を掛けると、彼女も少し気まずそうに短く応じ、中へと上がってくる。

 先にリビングで待っていると、真広は手を洗ってから入ってきた。

 この家に来ることに何の違和感もない、勝手知ったる仲。そんな彼女に対して、まさか緊張する日が来るなんて思ってもいなかった。


「コーヒー淹れとくから、座って待っとけば」


 キッチンへ向かいながらそう告げると、真広は「……うん」とぎこちなく返事をして、ソファに腰を下ろした。
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