`未完の恋、指先で溶かして
 コーヒーをローテーブルに置くと、真広とは少し距離を置いてソファに座る。

 真広は「ありがとう」と小さく言って、湯気の立つカップをじっと眺めている。俺も緊張していたけれど、真広の方も相当なものだった。

 彼女が本題に入るのを待っていると、真広がこちらへ体を少し傾けるのが見えた。俺も背もたれに預けていた背を軽く離し、彼女の方を向き直る。

 こんな風に改まって話をするなんて、初めてかもしれない。


「…どうした?」


 緊張を解きほぐそうと優しく促すと、真広はさらに表情を強張らせてしまった。

 その様子で、彼女が何を言おうとしているのか、分かってしまった気がした。

 だけどそれは、あいつより俺が近くにいたから、少し揺らいだだけかもしれない。

 俺だってきっとそうだ。心地よく過ごせて、自分に優しくしてくれる相手のもとへ、叶わない恋から逃げていただけだと思う。


「私、佐久間くんが好き」


 こういう時の予感は、どうしてこうも当たってしまうのか。俺は返事に窮した。

 どうしてそんなにはっきりと、想いをぶつけられるんだろう。ついさっきまで真紘が好きだと言っていたのに、どうしてこれほど潔く心変わりができるのか。

 俺の心が揺れているのは確かだけど、彼女を好きだと言い切れるほどの熱量も、森山への想いの断ち切り方も、まだ何も整理がついていなかった。
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