`未完の恋、指先で溶かして
「…はあ、何か悔しい。これで可愛いってまた思わせられるの」

「ねぇ! 気持ちがないなら、そういう思わせぶりな発言やめて! 私すぐ期待するし、期待と違ったら病むから!」


 怒るポイントがどこかズレているのも、彼女らしくておかしい。

 俺は少し笑って、「思わせぶりじゃないよ」とはっきり口にした。


「もっと最低なこと言うけど、俺もかなり揺らされてんの。真広に」


 本当に情けない。

 モデルという仕事をしているだけあって、当然のように綺麗な顔をしているし、人からの見られ方を気にしている。だけど、時折見せる子供のような姿や、俺の落ち込みに敏感に気づいてくれるところ。そういうひとつひとつに、ずっと前から、胸のざわつきを感じていた。

 だけど、今はまだ、彼女を好きだなんて言えない。

 俺の中に残っているのは、ただの未練だ。
 今はまず、それに向き合わなきゃいけないと思っている。


「じゃあ、押していいってこと?」


 真広にそう問われ、ふいと目を逸らす。すると、彼女は逃がさないと言わんばかりにぐいっと顔を近づけてきた。

 その勢いに負け、「…お手柔らかに」と苦笑いして白旗を上げる。そう言ったそばから、彼女は嬉しそうに抱きついてきた。

 ソファの上でその体温を受け止めながら、俺は彼女の背中を撫でる。


「好き、佐久間くん」


 俺はもしかしたら、とんでもない人に好かれてしまったのかもしれない。
< 65 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop