`未完の恋、指先で溶かして
まっさら、さらさら
 あの日から、しばらくの月日が流れた。

 結局、森山は佐野と交際を始めた。
 その報告は、佐野本人からあった。

 そのこともあり、俺の中では少しずつ森山への諦めがついてきていた。

 極力、彼女とは顔を合わせないようにし、会社ではひたすら仕事に没頭する。それとは対照的に、真広はかなりの頻度で俺の家に通い、顔を合わせるようになっていた。

 だけど、俺達の関係性は、依然として友人のままだ。


「プレゼンを始めます!」


 俺がソファでくつろいでいると、突然何かが始まった。

 肘掛けに肘を預け、頬杖をついて眺めていると、真広はテレビの前に立ち、大きな画用紙をこちらに向けて掲げている。

 紙には《Mihiro’s presentation!!》と書かれていて、突然、真広劇場が開幕した。


「人のプレゼン聞くときそんな態度で聞くわけ?」

「はい、すんません」


 なぜか怒られ、俺は姿勢を正す羽目になった。

 何が始まるのかはさっぱり分からないが、一生懸命に準備した姿を想像すると、なんだか可愛らしく思えてくる。

 あの日以来、真広は定期的に家へ来るようになった。夕飯を食べて、語らって、時々泊まることもあるけれど、寝室は別々。そんな節度ある日々が続いている。

 彼女は記者などに後をつけられないよう、毎度違う道を通り、人目に付かないよう苦労してここへ来ているらしい。

 そこまで苦労をかけている申し訳なさもあったが、住む世界の違う業界人である彼女に、俺なんかが釣り合うのだろうか。そんな考えが、ふとした瞬間に頭を過った。
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