悪役と一線超えてから転生に気付いたんですがどうしましょう…?
駆け落ち
私は魔法なんて存在しない世界でスマホやPCを使って転生ものの小説やゲームを楽しんでいた。
別に家庭環境は普通だったし、悪くもない人生だったと思う。
これといって大きな恋愛は無く、結婚はしていなかったけれど、彼氏がいた事も無いわけではなかったし…
至って普通の人生だった。例えるなら凪。
大きく感情が揺さぶられるようなこともない平凡な人生。
だからこんな、頭の中が真っ白になるほどの衝撃を受けた事は無かった。
真っ白なのに高速で記憶を振り返って、今のこの状況を判断しようとしている脳と、いやにゆっくりに感じる時間。
多分外から見れば今のこの30分くらいに感じる時間は数秒の出来事なんだろう。
「…リズ…?」
様子がおかしい事に気付いたアルが私に触れようとして、足で腕を拘束されている事に「ああ…」と一瞬目を閉じて嘆息した。
ふたたび目を開くと遠慮がちな視線を向けながら訊ねる。
「リズ、もう邪魔しないから、腕を動かしていいかな…。」
「んー…、ひとまず…」
俯いて思案していた私は顔をあげてアルに告げる。
「思ったほど痛くも無かったし、このまま楽しみましょう。
それから考えればいいわ。」
「へ?」
何の話か分からない様子のアルに再度口付け、にやりと口角を上げた。
「この世界じゃ知りえない快楽を教えてあげるわ。」
とても「純粋な少女」が言うセリフとは思えない言葉を吐いて、腕を解放する代わりに逃がさないよう体を押し付け、壁伝いにずるりと滑らせて、静かに床へ押し倒した。
「え?ちょっと待ってリズ、…え?」
アルが困惑するのを尻目に、馬乗りになってコルセットを外す。
ブラの役割も兼ねているタイプのコルセットが外れ、押さえつけられていた胸が揺れるのを見せつけると、アルが状況を思い出したようでまた赤くなって顔を逸らす。
ここまでの事をしているのにまだ恥ずかしがっているアルにどうしようもなくニヤついてしまう。
「あら、わたくしが初めてを捧げて繋がったままのこの状況で、今お忘れになっていました?」
訊ねながらグイっと腰を動かすとアルがくっと喉を鳴らした。
顔を逸らしたまま、苦しそうな声で返事を返す。
「違う、…正気に戻って後悔したんじゃないかと思って…心配になったんだ。」
「ふふっ、後悔する程度の気持ちならこんな事致しませんわ。」
あっさり言って返すと、アルは照れていたのから一転、伺うような表情になってこちらを見上げた。
「…そう、こんな事、本来ならする必要ない…。」
もう取り返しがつかない状態になった事で止めなければと焦る必要がなくなり、冷静に思考した結果なんとなく察したのだろう。
その顔は血の気が引いて真顔になっていた。
「そうよ。
わたくしの両親はアルに婚約破棄を申し出るつもりで、神殿に近いこの屋敷に呼んだのです。」
明日の朝食の席で婚約破棄を言い渡して、神殿でさっさと手続きをさせるために。
アルの目が見開かれる。
「皇族の方と婚約させるつもりのようでした。
ま、もう有り得ませんけど。」
海外ドラマみたいに両手を肩まで上げながらサクッと告げると、アルは真剣な表情で言った。
「皇族と結婚できた方がリズは幸せになれるんじゃないのか…?」
今度固まるのは私の方だった。
「…何でそう思うのですか?わたくしが優雅な暮らしを求めていると?」
「違う…、僕の家は…」
言いかけて、言葉を詰まらせるアル。
そうか、もう裏の家業の事を知っているのか、と察した。
「結婚の相談って言われて、もしかして裏の家業の事が知られて話があるのだと思った?」
「!」
やはりそうだ、アルは自身の家門が帝国の命を受けて暗殺を担う立場にある家だと知っている。
「…僕も最近、18の誕生日に知らされたんだ。
それで、リズにそれでも良いか訊こうと思って…」
通りで、夜中にこんなひと気の無い書庫に呼ばれるままついて来たわけだ。
暗殺の命を受けていることは門外不出だから。
本来なら結婚するまで私に話す事も許されない。
「掟を破ってまで、わたくしの事を想ってくれたのね。」
「…こんな結果になって、不甲斐ないけど…。」
私が襲ったのに、どうやらアルは責任を感じているらしい。
硬さを失いだした私の中のものが物語っている。
「確かに、真面目な話したせいで中途半端になっちゃいそう。」
クイッと腰を動かすとアルがちょっとだけ顔をしかめた。
「今は真面目な話の方を優先すべきでは…?」
「だって結論はもう出ているじゃない。」
クスっと笑って見下ろすと、アルが息を詰まらせた。
「あなたが欲しいの。」
真っ直ぐに目を見据えて告げると、観念したようにアルが答える。
「僕に出来るなら何だって…全てをエリザベス・アイビー、貴女に捧げます。」
「素敵ね…」
満足そうに微笑んむ自分の姿をアルの瞳の中に見ながら、三度目の口付けを交わし、
お互いに完全な掟破りを果たした。
ーーーー
翌朝、予定通り集まった朝食の席で、わざと手にかすり傷を作って見せた私に
当然ながら両親は大激怒した。
手にしていた紅茶を浴びせかけようとした母親に気付いたアルが席を立ち、私の前にさっと入り込む。
パシャっと軽い水音がして、彼の顔に紅茶がかかる。
アルは拭う素振りも見せず、すぐに私から離れて姿勢を正し、深々と頭を下げた。
「この度は申し訳ありませんでした。責任は必ず取ります。絶対に幸せに…」
「北方のあんな何も無い所に嫁いで何が幸せよ!」
言葉も待たず放った母親のにべも無い発言に硬直する。
「末席とはいえ、皇族に嫁げるはずだったのよ!?」
「わたくしは特に望んでおりません。」
ヒステリックに叫ぶ母親にきっぱりと言い放ち、私も次いで席を立つと今度は父親の方へ向き直る。
「勘当でもなんでも問題ございません、覚悟の上です。」
意志の強い瞳に射抜かれた両親は完全に閉口してしまった。
最早商品としての価値はないのだから両親が私に執着する事は無いだろう。
見切りをつけて、まだ謝罪の言葉を並べそうなアルに手を差し出す。
「行くわよ、アル。」
「…っ、はい。」
握り返す手を引き、そのまま朝一番に呼びつけて待たせておいた馬車へと乗り込む。
馬車に足を踏み入れる寸前、アルが振り返った。
だが予想通り、両親は追ってなど来なかった。
前世の記憶が蘇った今の私には分かっている。
あの両親はリズの事を商品としてしか見ておらず、愛情などほとんど持っていなかった。
「心配しないで、何の未練も無いわ。」
「リズ…」
私よりよっぽど心を痛めている様子のアルにハンカチを差し出すと、その手を握られた。
「絶対、君を幸せにする。」
「既にアルを手に入れられて幸せなんだけれど?」
これはもちろん間違いなく本心だ。
折角のキュンとする宣言だけど、金儲けしか頭にない悪質な親の手から逃れられて、最愛の人を手に入れて、これが幸せ以外の何だというのか。
しれっと告げた私の顔を、アルは信じられないといった風情でまじまじと見つめた。
まぁ普通の令嬢なら有り得ない。
しばらくの沈黙のあと、ふはっと吐息の漏れる音がして、再会からこれまでで、やっとアルが笑った。
「僕も、これ以上なんてないくらい幸せです。」
「ハグしたい。」
笑顔が可愛すぎて欲望が口をつくと「ちょっと待って」とようやくアルは自分の髪を拭いてくれた。
その後の帰路は本来3日間のはずが昼まで宿で過ごしたりするせいで5日かかり、人に話す内容ではないな、と思うほど甘い時間だった。
砦の近くに位置するグレイソン邸に着くと、私達はアルのご両親に事情を話した。
金銭的なメリットや得られるはずだった人脈など諸々を失った上、アルの他の選択肢も奪ってしまった以上、誹りを受けるつもりでいたが、私の予想に反して温かく迎え入れてくれた。
ゲームの悪役とは思えないほど純朴な青年と、温かいその家族。
メインストーリーが展開される王都から遠く離れた砦。
正直、「理不尽な婚約破棄で闇落ち」の一文が無くなった以上、アルはこの純粋な姿のまま生きるはずで、もう悪役フラグは折れたと思っていた。
リズの幸せを一番に想い、あっさり身を引きかねないアルが、
闇落ちするほどの「理不尽な婚約破棄」にどんな出来事が予定されていたのかを私が知る事はなかったから。
別に家庭環境は普通だったし、悪くもない人生だったと思う。
これといって大きな恋愛は無く、結婚はしていなかったけれど、彼氏がいた事も無いわけではなかったし…
至って普通の人生だった。例えるなら凪。
大きく感情が揺さぶられるようなこともない平凡な人生。
だからこんな、頭の中が真っ白になるほどの衝撃を受けた事は無かった。
真っ白なのに高速で記憶を振り返って、今のこの状況を判断しようとしている脳と、いやにゆっくりに感じる時間。
多分外から見れば今のこの30分くらいに感じる時間は数秒の出来事なんだろう。
「…リズ…?」
様子がおかしい事に気付いたアルが私に触れようとして、足で腕を拘束されている事に「ああ…」と一瞬目を閉じて嘆息した。
ふたたび目を開くと遠慮がちな視線を向けながら訊ねる。
「リズ、もう邪魔しないから、腕を動かしていいかな…。」
「んー…、ひとまず…」
俯いて思案していた私は顔をあげてアルに告げる。
「思ったほど痛くも無かったし、このまま楽しみましょう。
それから考えればいいわ。」
「へ?」
何の話か分からない様子のアルに再度口付け、にやりと口角を上げた。
「この世界じゃ知りえない快楽を教えてあげるわ。」
とても「純粋な少女」が言うセリフとは思えない言葉を吐いて、腕を解放する代わりに逃がさないよう体を押し付け、壁伝いにずるりと滑らせて、静かに床へ押し倒した。
「え?ちょっと待ってリズ、…え?」
アルが困惑するのを尻目に、馬乗りになってコルセットを外す。
ブラの役割も兼ねているタイプのコルセットが外れ、押さえつけられていた胸が揺れるのを見せつけると、アルが状況を思い出したようでまた赤くなって顔を逸らす。
ここまでの事をしているのにまだ恥ずかしがっているアルにどうしようもなくニヤついてしまう。
「あら、わたくしが初めてを捧げて繋がったままのこの状況で、今お忘れになっていました?」
訊ねながらグイっと腰を動かすとアルがくっと喉を鳴らした。
顔を逸らしたまま、苦しそうな声で返事を返す。
「違う、…正気に戻って後悔したんじゃないかと思って…心配になったんだ。」
「ふふっ、後悔する程度の気持ちならこんな事致しませんわ。」
あっさり言って返すと、アルは照れていたのから一転、伺うような表情になってこちらを見上げた。
「…そう、こんな事、本来ならする必要ない…。」
もう取り返しがつかない状態になった事で止めなければと焦る必要がなくなり、冷静に思考した結果なんとなく察したのだろう。
その顔は血の気が引いて真顔になっていた。
「そうよ。
わたくしの両親はアルに婚約破棄を申し出るつもりで、神殿に近いこの屋敷に呼んだのです。」
明日の朝食の席で婚約破棄を言い渡して、神殿でさっさと手続きをさせるために。
アルの目が見開かれる。
「皇族の方と婚約させるつもりのようでした。
ま、もう有り得ませんけど。」
海外ドラマみたいに両手を肩まで上げながらサクッと告げると、アルは真剣な表情で言った。
「皇族と結婚できた方がリズは幸せになれるんじゃないのか…?」
今度固まるのは私の方だった。
「…何でそう思うのですか?わたくしが優雅な暮らしを求めていると?」
「違う…、僕の家は…」
言いかけて、言葉を詰まらせるアル。
そうか、もう裏の家業の事を知っているのか、と察した。
「結婚の相談って言われて、もしかして裏の家業の事が知られて話があるのだと思った?」
「!」
やはりそうだ、アルは自身の家門が帝国の命を受けて暗殺を担う立場にある家だと知っている。
「…僕も最近、18の誕生日に知らされたんだ。
それで、リズにそれでも良いか訊こうと思って…」
通りで、夜中にこんなひと気の無い書庫に呼ばれるままついて来たわけだ。
暗殺の命を受けていることは門外不出だから。
本来なら結婚するまで私に話す事も許されない。
「掟を破ってまで、わたくしの事を想ってくれたのね。」
「…こんな結果になって、不甲斐ないけど…。」
私が襲ったのに、どうやらアルは責任を感じているらしい。
硬さを失いだした私の中のものが物語っている。
「確かに、真面目な話したせいで中途半端になっちゃいそう。」
クイッと腰を動かすとアルがちょっとだけ顔をしかめた。
「今は真面目な話の方を優先すべきでは…?」
「だって結論はもう出ているじゃない。」
クスっと笑って見下ろすと、アルが息を詰まらせた。
「あなたが欲しいの。」
真っ直ぐに目を見据えて告げると、観念したようにアルが答える。
「僕に出来るなら何だって…全てをエリザベス・アイビー、貴女に捧げます。」
「素敵ね…」
満足そうに微笑んむ自分の姿をアルの瞳の中に見ながら、三度目の口付けを交わし、
お互いに完全な掟破りを果たした。
ーーーー
翌朝、予定通り集まった朝食の席で、わざと手にかすり傷を作って見せた私に
当然ながら両親は大激怒した。
手にしていた紅茶を浴びせかけようとした母親に気付いたアルが席を立ち、私の前にさっと入り込む。
パシャっと軽い水音がして、彼の顔に紅茶がかかる。
アルは拭う素振りも見せず、すぐに私から離れて姿勢を正し、深々と頭を下げた。
「この度は申し訳ありませんでした。責任は必ず取ります。絶対に幸せに…」
「北方のあんな何も無い所に嫁いで何が幸せよ!」
言葉も待たず放った母親のにべも無い発言に硬直する。
「末席とはいえ、皇族に嫁げるはずだったのよ!?」
「わたくしは特に望んでおりません。」
ヒステリックに叫ぶ母親にきっぱりと言い放ち、私も次いで席を立つと今度は父親の方へ向き直る。
「勘当でもなんでも問題ございません、覚悟の上です。」
意志の強い瞳に射抜かれた両親は完全に閉口してしまった。
最早商品としての価値はないのだから両親が私に執着する事は無いだろう。
見切りをつけて、まだ謝罪の言葉を並べそうなアルに手を差し出す。
「行くわよ、アル。」
「…っ、はい。」
握り返す手を引き、そのまま朝一番に呼びつけて待たせておいた馬車へと乗り込む。
馬車に足を踏み入れる寸前、アルが振り返った。
だが予想通り、両親は追ってなど来なかった。
前世の記憶が蘇った今の私には分かっている。
あの両親はリズの事を商品としてしか見ておらず、愛情などほとんど持っていなかった。
「心配しないで、何の未練も無いわ。」
「リズ…」
私よりよっぽど心を痛めている様子のアルにハンカチを差し出すと、その手を握られた。
「絶対、君を幸せにする。」
「既にアルを手に入れられて幸せなんだけれど?」
これはもちろん間違いなく本心だ。
折角のキュンとする宣言だけど、金儲けしか頭にない悪質な親の手から逃れられて、最愛の人を手に入れて、これが幸せ以外の何だというのか。
しれっと告げた私の顔を、アルは信じられないといった風情でまじまじと見つめた。
まぁ普通の令嬢なら有り得ない。
しばらくの沈黙のあと、ふはっと吐息の漏れる音がして、再会からこれまでで、やっとアルが笑った。
「僕も、これ以上なんてないくらい幸せです。」
「ハグしたい。」
笑顔が可愛すぎて欲望が口をつくと「ちょっと待って」とようやくアルは自分の髪を拭いてくれた。
その後の帰路は本来3日間のはずが昼まで宿で過ごしたりするせいで5日かかり、人に話す内容ではないな、と思うほど甘い時間だった。
砦の近くに位置するグレイソン邸に着くと、私達はアルのご両親に事情を話した。
金銭的なメリットや得られるはずだった人脈など諸々を失った上、アルの他の選択肢も奪ってしまった以上、誹りを受けるつもりでいたが、私の予想に反して温かく迎え入れてくれた。
ゲームの悪役とは思えないほど純朴な青年と、温かいその家族。
メインストーリーが展開される王都から遠く離れた砦。
正直、「理不尽な婚約破棄で闇落ち」の一文が無くなった以上、アルはこの純粋な姿のまま生きるはずで、もう悪役フラグは折れたと思っていた。
リズの幸せを一番に想い、あっさり身を引きかねないアルが、
闇落ちするほどの「理不尽な婚約破棄」にどんな出来事が予定されていたのかを私が知る事はなかったから。