悪役と一線超えてから転生に気付いたんですがどうしましょう…?
グレイソン伯爵家
考えてみれば、暗殺家業の一人息子の妻(予定)なわけだから、冷遇される心配は不要だった…?
挨拶の後、それはもう歓迎されまくって邸宅中から毛皮や羽毛布団を引っ張り出してきて温かく整備された部屋から一歩出てみて思った。
部屋の整備の間は人通りも多く賑やかで慌ただしかったが、一通りの準備が終わるとしんと静まり返って全くの別空間の様だ。
基本的に冷たく冷え切った廊下は用が無い限り皆歩かないらしい。
そこから理解した。
社交界から鼻つまみも何も、こんな雪山じゃパーティーなんて滅多に開かれない。
王都なら大変な事だったけど、ここまで国の端っこならあんまり関係ないのかもしれない。
門前払いや冷遇どころか、私の部屋が今邸宅内で一番温かく豪華な部屋になっているように感じるのは多分勘違いではないはずだ。
(私が世継ぎ生まないとだしね!)
けど、アルのご両親はそんなことの為に良くしてくれているわけでは無さそうだった。
(前世の両親の雰囲気に似てるんだよね…)
でも、暗殺を請け負っている人達…。
あんなに穏やかな笑顔をしているのに…正直信じられなかった。
「リズ?」
後ろから思いがけずかかってきたよく知る声に、ハッとして振り返る。
「アル!」
その手には沢山の本と、カゴいっぱいのお菓子。
「この部屋は厨房や書庫まで遠いから。」
アルに仕草で部屋に戻るよう促され、素直にそれに従う。
「必要なものがあったら言って?すぐ用意するから。」
「お屋敷の案内をしてくれるんじゃなくて?」
聞き返すと、アルは一瞬朗らかな笑顔を引き攣らせて固まった。
「これからずっとここで暮らすんだもの。
覚えた方が良いでしょう?」
至極当然のことを言ったつもりなのだが、アルは困ったような顔をした。
「それに、寝室は一緒がいいわ。」
お菓子のカゴをテーブルに置いたアルの手に自分の手を重ねながら言うと、アルは途端に頬を赤らめた。
帰路で散々「そういう行為」に耽ったのに、未だに慣れない様子が可愛くて仕方なくて距離を詰めると、思わぬ返事が返ってきた。
「一緒に寝るのは危ないから…っ、」
「え?」
私は呆気にとられた。危ない?
「リズも知っての通り、うちは暗殺を請け負ったりしている分、命を狙われることが多いから、
主やその代わりになる人間が一気に殺される事が無いよう両親も寝室は別にしてるんだ。」
今、やっとヤバい家に来た実感を得られた。
「つまり、アルの部屋ってわたくしの部屋から結構遠い?」
「うん、隣の棟。」
(棟から違うんですね!!)
思わず目を閉じて心の中で力いっぱい叫んだ。
「厨房は業者の出入りがある分、危険だから近づかないで欲しくて…
書庫はひと気が無いから危なくて…」
「いや、そんな常に命の危険を感じながら生活してきたの!?」
今度は思わず声に出してしまった。
「その、本当にごめん。
だから子どもの頃はリズの家で暮らしてたんだ。」
あ、なるほど。と私が幼少期の疑問を解消している間も、アルは申し訳なさそうに説明する。
「代々そういう決まりで…、迷惑をかけずに預けられる年齢までは家で育てるんだけど、
そこから身を守れる歳になるまで他家で内密に育ててもらって、
10歳になったらこの家で暮らして危険を回避する術を身につける。」
なるほどですねー…。って、気のせいだろうか。
「つまり今後わたくしも危険を回避する術を学ぶ事になる…?」
「…はい。」
身を守る方法が花嫁修業なんて普通じゃない。
アルが手にしている本もよく見れば毒物や魔物、武器や黒魔術に関する書物だ。
「リズ、君が嫌なら僕も家を捨てる。」
手を握り返されて、驚きで弾かれた様にアルを見上げると、嘘やごまかしのない真っ直ぐな瞳がこちらを見つめていた。
「大丈夫。」
揺らぎの無い琥珀色の瞳を見つめ返して、きっぱり断った。
前世を思い出すまで暗殺一家なんて事は知らなかったから、その覚悟は全くしていなかったので、その点は「覚悟してた。」とは答えられない。
けど、両家に見限られて一文無しになってスラム街で暮らす生活は覚悟していたから大丈夫。
ちょっと方向性が変わっただけだ。
春風でも吹き込んできそうなくらいのにこやかな笑顔を浮かべて答えを返す。
「アルが奉仕してくれるなら全然大したことないわ?」
「奉仕?あ、うん、いくらでも用意するから欲しい物があったら何でも…」
(純粋が過ぎる。)
不穏な笑みを深めていくリゼに気付かないこの青年が暗殺なんて出来るんだろうか。と不安になるが、ゲームのシナリオではそれはもう冷酷な領主様だったのでどこかにはその素養があるのだろう。
「この後用事は?」
「無いよ。今日の予定は説明だけだったから。
こんなにアッサリ承諾されると思ってなかったし…、」
ちらりとアルの様子を窺うも、ベッドの横まで来て尚、一向にリズが手を引いている理由に気付かない。
「夜はそういう事出来ないって事よね?」
その一言でようやく察したらしく、白く戻っていたアルの頬が紅潮する。
「えっ、…そうだけど…っ、え⁉」
「まだ誰か来る?」
訊ねながらベッドに腰かけて隣に誘導すると、「来ない、けど…」と言いにくそうに切り出して、アルが答えた。
「その、この屋敷の使用人の人達は全員諜報部員や暗殺者なんだ。」
「あら…まぁ。」
正直面食らった。
この部屋を瞬く間に準備してくれた、あの無害そうな使用人たちが全員?
「それで、その、リズが今一番危険な目に遭う可能性が高いから警戒しているわけで…。」
「もしかして、言い方が悪いけど、盗聴的な事をしている…とか?」
言い当てると、アルは気まずそうに、コクリと首を縦に振った。
「部屋の中を覗いたりはしていないのね?」
「それは勿論!それに、危険じゃない限りはそんなにずっと聞き続けているわけじゃないし…っ、」
「ならいいわ。」
出来る限り私の精神的な負担を減らそうと弁明するけれど、確認したかったのは見られているかどうかだけだったので手で制して遮る。
え、と声を漏らすアルをベッドに引き倒す。
「ちょ…っ、リズ!?」
揺れる瞳に向かってニヤリとしながら口付ける。
軽いものから、次第に深く。
「…っ、は…リズ…っ」
戸惑いながらも興奮しているところに手を伸ばすと、アルが恥ずかしそうに睫毛を伏せる。
「もう何度もしているのに…まだそんな可愛い反応をしてくれるのね…?」
「…むしろ、リゼはなんでそんなに落ち着いてるの…っ、うぁ…っ…!」
熱をもった先端を少し強めにぐりぐりと擦られて、アルの体がびくんと跳ねた。
そこそこ経験のある女が転生したからとは口が裂けても言えない。
「それ…っ、やめ…――っ!」
必死に我慢して、途切れ途切れにくぐもった声を漏らしていたが、
耐えられなくなったのか枕に顔をうずめてしまった。
冷酷非道なヤンデレとか想像もつかない可愛さに内心身悶えする。
「必要なものは何でもくれるんでしょう?あなたが欲しい。」
枕を外して耳元で囁くと、アルは微かに身体を震わせた。
「……はい。」
ーーーーー
そのまま、事情を知っている侍女が部屋まで持ってきた夕飯を食べて、リズは眠りについた。
緩やかに波打ったピンク色の髪を軽く撫でながら、アルは目を細めた。
(出来れば家業の事は知られたくなかった。)
結婚しても隠し通すつもりでいたのにな…と嘆息する。
家門の闇は完全に隠し通して、ただ幸せに暮らしたかった。
その夢だけがこの家で暮らすアルの唯一の心の支えだった。
「アルフレッド様、馬車の準備が出来ております。」
執事の声だ。
ノックは無く、扉の前から小声で話しただけ。
けれど訓練されているとその声も普通の話し声同様に、ハッキリと聞き取れる。
音もなく扉を開けて部屋を出ると、執事に一言だけ声をかけた。
「リズの警護は任せたよ。」
「承知しております。アルフレッド様も、お気をつけて。」
8年にわたる訓練の成果で、足音はもう無意識に消している。
「…今日は3人か…。」
すれ違いざまに執事から手渡された対象者リストを冷めた目で見つめながら呟き、馬車に乗り込んでいった。
挨拶の後、それはもう歓迎されまくって邸宅中から毛皮や羽毛布団を引っ張り出してきて温かく整備された部屋から一歩出てみて思った。
部屋の整備の間は人通りも多く賑やかで慌ただしかったが、一通りの準備が終わるとしんと静まり返って全くの別空間の様だ。
基本的に冷たく冷え切った廊下は用が無い限り皆歩かないらしい。
そこから理解した。
社交界から鼻つまみも何も、こんな雪山じゃパーティーなんて滅多に開かれない。
王都なら大変な事だったけど、ここまで国の端っこならあんまり関係ないのかもしれない。
門前払いや冷遇どころか、私の部屋が今邸宅内で一番温かく豪華な部屋になっているように感じるのは多分勘違いではないはずだ。
(私が世継ぎ生まないとだしね!)
けど、アルのご両親はそんなことの為に良くしてくれているわけでは無さそうだった。
(前世の両親の雰囲気に似てるんだよね…)
でも、暗殺を請け負っている人達…。
あんなに穏やかな笑顔をしているのに…正直信じられなかった。
「リズ?」
後ろから思いがけずかかってきたよく知る声に、ハッとして振り返る。
「アル!」
その手には沢山の本と、カゴいっぱいのお菓子。
「この部屋は厨房や書庫まで遠いから。」
アルに仕草で部屋に戻るよう促され、素直にそれに従う。
「必要なものがあったら言って?すぐ用意するから。」
「お屋敷の案内をしてくれるんじゃなくて?」
聞き返すと、アルは一瞬朗らかな笑顔を引き攣らせて固まった。
「これからずっとここで暮らすんだもの。
覚えた方が良いでしょう?」
至極当然のことを言ったつもりなのだが、アルは困ったような顔をした。
「それに、寝室は一緒がいいわ。」
お菓子のカゴをテーブルに置いたアルの手に自分の手を重ねながら言うと、アルは途端に頬を赤らめた。
帰路で散々「そういう行為」に耽ったのに、未だに慣れない様子が可愛くて仕方なくて距離を詰めると、思わぬ返事が返ってきた。
「一緒に寝るのは危ないから…っ、」
「え?」
私は呆気にとられた。危ない?
「リズも知っての通り、うちは暗殺を請け負ったりしている分、命を狙われることが多いから、
主やその代わりになる人間が一気に殺される事が無いよう両親も寝室は別にしてるんだ。」
今、やっとヤバい家に来た実感を得られた。
「つまり、アルの部屋ってわたくしの部屋から結構遠い?」
「うん、隣の棟。」
(棟から違うんですね!!)
思わず目を閉じて心の中で力いっぱい叫んだ。
「厨房は業者の出入りがある分、危険だから近づかないで欲しくて…
書庫はひと気が無いから危なくて…」
「いや、そんな常に命の危険を感じながら生活してきたの!?」
今度は思わず声に出してしまった。
「その、本当にごめん。
だから子どもの頃はリズの家で暮らしてたんだ。」
あ、なるほど。と私が幼少期の疑問を解消している間も、アルは申し訳なさそうに説明する。
「代々そういう決まりで…、迷惑をかけずに預けられる年齢までは家で育てるんだけど、
そこから身を守れる歳になるまで他家で内密に育ててもらって、
10歳になったらこの家で暮らして危険を回避する術を身につける。」
なるほどですねー…。って、気のせいだろうか。
「つまり今後わたくしも危険を回避する術を学ぶ事になる…?」
「…はい。」
身を守る方法が花嫁修業なんて普通じゃない。
アルが手にしている本もよく見れば毒物や魔物、武器や黒魔術に関する書物だ。
「リズ、君が嫌なら僕も家を捨てる。」
手を握り返されて、驚きで弾かれた様にアルを見上げると、嘘やごまかしのない真っ直ぐな瞳がこちらを見つめていた。
「大丈夫。」
揺らぎの無い琥珀色の瞳を見つめ返して、きっぱり断った。
前世を思い出すまで暗殺一家なんて事は知らなかったから、その覚悟は全くしていなかったので、その点は「覚悟してた。」とは答えられない。
けど、両家に見限られて一文無しになってスラム街で暮らす生活は覚悟していたから大丈夫。
ちょっと方向性が変わっただけだ。
春風でも吹き込んできそうなくらいのにこやかな笑顔を浮かべて答えを返す。
「アルが奉仕してくれるなら全然大したことないわ?」
「奉仕?あ、うん、いくらでも用意するから欲しい物があったら何でも…」
(純粋が過ぎる。)
不穏な笑みを深めていくリゼに気付かないこの青年が暗殺なんて出来るんだろうか。と不安になるが、ゲームのシナリオではそれはもう冷酷な領主様だったのでどこかにはその素養があるのだろう。
「この後用事は?」
「無いよ。今日の予定は説明だけだったから。
こんなにアッサリ承諾されると思ってなかったし…、」
ちらりとアルの様子を窺うも、ベッドの横まで来て尚、一向にリズが手を引いている理由に気付かない。
「夜はそういう事出来ないって事よね?」
その一言でようやく察したらしく、白く戻っていたアルの頬が紅潮する。
「えっ、…そうだけど…っ、え⁉」
「まだ誰か来る?」
訊ねながらベッドに腰かけて隣に誘導すると、「来ない、けど…」と言いにくそうに切り出して、アルが答えた。
「その、この屋敷の使用人の人達は全員諜報部員や暗殺者なんだ。」
「あら…まぁ。」
正直面食らった。
この部屋を瞬く間に準備してくれた、あの無害そうな使用人たちが全員?
「それで、その、リズが今一番危険な目に遭う可能性が高いから警戒しているわけで…。」
「もしかして、言い方が悪いけど、盗聴的な事をしている…とか?」
言い当てると、アルは気まずそうに、コクリと首を縦に振った。
「部屋の中を覗いたりはしていないのね?」
「それは勿論!それに、危険じゃない限りはそんなにずっと聞き続けているわけじゃないし…っ、」
「ならいいわ。」
出来る限り私の精神的な負担を減らそうと弁明するけれど、確認したかったのは見られているかどうかだけだったので手で制して遮る。
え、と声を漏らすアルをベッドに引き倒す。
「ちょ…っ、リズ!?」
揺れる瞳に向かってニヤリとしながら口付ける。
軽いものから、次第に深く。
「…っ、は…リズ…っ」
戸惑いながらも興奮しているところに手を伸ばすと、アルが恥ずかしそうに睫毛を伏せる。
「もう何度もしているのに…まだそんな可愛い反応をしてくれるのね…?」
「…むしろ、リゼはなんでそんなに落ち着いてるの…っ、うぁ…っ…!」
熱をもった先端を少し強めにぐりぐりと擦られて、アルの体がびくんと跳ねた。
そこそこ経験のある女が転生したからとは口が裂けても言えない。
「それ…っ、やめ…――っ!」
必死に我慢して、途切れ途切れにくぐもった声を漏らしていたが、
耐えられなくなったのか枕に顔をうずめてしまった。
冷酷非道なヤンデレとか想像もつかない可愛さに内心身悶えする。
「必要なものは何でもくれるんでしょう?あなたが欲しい。」
枕を外して耳元で囁くと、アルは微かに身体を震わせた。
「……はい。」
ーーーーー
そのまま、事情を知っている侍女が部屋まで持ってきた夕飯を食べて、リズは眠りについた。
緩やかに波打ったピンク色の髪を軽く撫でながら、アルは目を細めた。
(出来れば家業の事は知られたくなかった。)
結婚しても隠し通すつもりでいたのにな…と嘆息する。
家門の闇は完全に隠し通して、ただ幸せに暮らしたかった。
その夢だけがこの家で暮らすアルの唯一の心の支えだった。
「アルフレッド様、馬車の準備が出来ております。」
執事の声だ。
ノックは無く、扉の前から小声で話しただけ。
けれど訓練されているとその声も普通の話し声同様に、ハッキリと聞き取れる。
音もなく扉を開けて部屋を出ると、執事に一言だけ声をかけた。
「リズの警護は任せたよ。」
「承知しております。アルフレッド様も、お気をつけて。」
8年にわたる訓練の成果で、足音はもう無意識に消している。
「…今日は3人か…。」
すれ違いざまに執事から手渡された対象者リストを冷めた目で見つめながら呟き、馬車に乗り込んでいった。