再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。
***

 それから一ヶ月後。

 私は、再び神殿に戻っていた。

 ミレアとアレン君と一緒に、日課である女神様へのお祈りを済ませると部屋へ戻る。


「セーラ様、本日はいかがなされますか?」

「……少し休むわ。昼食の時間になったら声をかけてくれる?」

「かしこまりました」


 あれ以来体力があまり続かなくなってしまい、すぐに疲れるようになってしまった。あの洞窟でずっと魔石の瘴気を浴びていたことによる後遺症のようなものらしく、時が経てば自然と良くなっていくらしい。

 そのため今はあまり外に出ることもなく、一日のほとんどを部屋のベッドの上で過ごしている。


「セーラ」

「ロード様。こんにちは」

「体調はどうだ?」

「まだ少し。ロード様はどうしてこちらに?」

「セーラの顔を見に来たんだ。ついでにセイロンにも用があったから」


 絶対にセイロン様の方が本来の用事で私のお見舞いがついでだろうに、ロード様は毎回そう言ってくる。


「……それで、どうだ? 考えてくれたか?」

「……考えてはいます。まだ答えは出ておりませんが」


 ロード様から、つい数日前に提案されたことがある。


"セーラさえ良ければ、この国に残ることも考えてみてはくれないか?"


 と。

 私に身寄りがないこと、日本に戻ってもまた時間軸がズレて大変なことになっている可能性があること。なにより、今現在行方不明になってしまっているのは明白。そこから日本に戻ってまた身分を証明して仕事を探して。とてつもなく大変になることを見越して言ってくれたことだった。

 私だって、考えなかったわけじゃない。ずっと頭の片隅にあったことだ。

 夢の中で会えた、お母さんの言葉を思い出す。


"自分の気持ちに正直になりなさい。世羅が、後悔しない道を選びなさい。世羅がどんな決断をしても、お母さんは全てを尊重するわ"


 自分の気持ちに、正直に。私が、後悔しない道を。

 私にとって、後悔しない道はどっちなのだろう。

 もしこのまま日本に帰れば、私は王様と約束した通り二度とドラムトン王国に来ることはない。

 日本の生活がどれだけ大変だとしても、どれだけ孤独だとしても。生まれ育った土地で、慣れ親しんだものを食べて。便利なもので溢れる世の中で生きていけるだろう。楽しいことは少ないかもしれない。苦しくなることもたくさんあるかもしれない。だけど、それはただ元の生活に。本来のあるべき私の人生に戻るだけだ。

 じゃあ逆にここ、ドラムトン王国にこのまま残ったとしたら?

 大切な人たちに囲まれながら、笑って生きていけるかもしれない。たくさんの人に支えてもらうことにはなるだろう。迷惑ばかりかけてしまうだろう。不自由なこともたくさんあるだろう。日本に比べたら不便なことだらけだろう。だけど、穏やかな生活を送れるような気がする。

 頭の中で考えて、小さく笑う。


「……セーラ?」

「っ、なんでもないです」


 日本に戻る理由が。戻らないといけない理由が。何もないことに気が付いてしまった。

 だって、お母さんのいない日本にはもう大切な人はいない。一度目の召喚の時だって、お母さんがいたから早く日本に帰りたかっただけだった。

 それ以外は正直どうでも良かった。

 お母さんのいない今、私はどうして日本に帰りたいのだろう。なんのために帰りたいのだろう。
 
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