再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。
「……おも、わない……」

「ん?」

「そんなこと、思えません」


 そんなこと、思えるわけがないじゃないか。


「なら、セーラも同じだ。怖がる必要はないよ」


 頭の中で凝り固まっている部分が、少しだけ解けたような気がした。


「そう、かもしれません」


 複雑に絡み合ってキツく結ばれた紐の目なんて、全く見えなかったのに。ロード様は簡単にそれを解き始めてしまうんだから、本当にすごい人だ。


「私は日本から来た人間です。聖女としての使命が終われば、日本に帰るのが当たり前だと思ってた。……だけど、そう思いたかっただけなのかもしれません」


 日本で私の帰りを待っている人は、もういない。だけど私は日本の人間だから。ドラムトンの人間じゃないから。日本にいるべきであり、ここにいるべき存在ではない、と。


「……もしかしたら、一番怖いのは別のことなのかも」

「え?」

「……ここに残りたいと言った時に、ドラムトンの人たちに、"いらない"と言われるのが怖いだけなのかもしれません」

「セーラ。そんなこと」


 ううん、と首を横に振る。

 もしかしたら、無意識のうちに"日本に帰らなければ"と思い込むようにしてただけなのかもしれない。

 "お前なんかいらない"と言われる前に。

 "お前なんかこの国にもう必要無い"と言われる前に。

 捨てられてしまう前に。

 これ以上、心がボロボロになる前に。

 日本に戻れば、全て元通りになるから。ドラムトンを救った"聖女"としての私のまま、消えることができるから。


「いてもいなくても変わらない存在だと思い知らされることが、怖いのかもしれません」


 無意識のうちに、自分自身を守っていたのかもしれない。

  だから、日本に帰る理由がないことが苦しかったんだ。


「ロード様に残ってくれないかって言ってもらえた時、正直すごく戸惑ったけど本当は嬉しかったんです。だって日本には今、私の帰りを待ってくれている人はいませんから。だけど、ここには私に帰ってほしくないと思ってくれる人がいる。それって、すごく幸せなことですよね」


 帰らないで。そう言ってくれる人がいることが、今の私にとってどれほど救いになり、嬉しいことか。

 悩みを聞いて励ましてくれる。私自身もわかっていない不安の塊を紐解いてくれる。

 それが、どれだけ幸せなことか。

 ロード様は目を見開いて驚いてから、くしゃっと切なげに笑う。
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