再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。
「私は、母の看病を嫌だと思ったことはありませんでした。確かに疲れていたけど、母が元気になってくれればそれで良かった。だけど、日本に戻った時に母は死に、私はもう存在しないものとして扱われていた。その時に、この世界にいた時間の全てを後悔したんです」

「セーラ……」

「あの時召喚されていなかったら。すぐに日本に帰る方法があったなら。もっと、王様に進言していたら。そうしたら、何かが変わっていたかもしれない。もっと母と長く一緒にいられる人生があったかもしれない。そう思ってしまうんです。……私はこの世界を救うことと引き換えに、自分と母の人生を失ってしまったんです」


 あの時の記憶が、ほとんどない。とにかく大人を頼り、助けてもらった。

 警察の人たちも、当時の報道をよく覚えていてくれた。だからこそ、私が戻ってきたことを大々的に報じないでくれた。お母さんの名誉を、私の人生を、これ以上傷つけないでくれた。


「その後も大変でした。住む家も無かったし、お金も無い。日本では、家とお金が無いとどうしようもできないんです。子どもなら保護してもらえるけど、私は戸籍上は成人した年齢になっていました。だから自分でどうにかしなきゃいけない。……たくさんの大人の手を借りて、助けてもらって。どうにか踏ん張って頑張ってきました」


 たくさんの職を転々として、必死に頑張って。ようやく地に足をつけて生きていけるようになって、人生これからまた始めてみてもいいだろうか。そう思っていた。


「その矢先だったんです。……また、この世界に召喚されたのが」


 それ以上は言わなくても理解してくれたのか、ロード様が


「……ありがとう。つらいことを話させたな」


 と立ち上がってからこちらに歩いてきて。

 私をそっと抱きしめてくれた。


「ロード、様……?」

「苦しかったな。そんな時に召喚されて、魔力も失って言葉も分からなくて。本当に、つらかったな」


 リゼが隣で啜り泣いている声が聞こえる。ロード様も苦しそうな声で、頭をポンポンと撫でてくれて。


「っ……ロードさまっ……わたしっ」

「うん。泣いていいよ。セーラは頑張った。頑張りすぎなんだよ。たくさん泣いて。俺もリゼも、セーラが優しいところも一生懸命なところも、責任感が強いところも全部わかってる。一人で全てを抱え込んで、苦しかったな。もう全部吐き出していいんだ。もう頑張らなくていいから。耐えなくていいから。泣いていいよ」


 その優しい言葉に、目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 頑張らなきゃ。私だけでも、必死に生きなきゃ。お母さんのためにも、生きていかなきゃ。強くならなきゃ。誰よりも強くなって、お母さんにもう心配をかけないようにしなきゃ。

 それだけを考えて生きてきた。

 でも、ロード様に頑張らなくていいと言われて、張り詰めていた糸が解かれたような。そんな気がして涙が止まらない。
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