アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
やがて奏が、ゆっくりと手を離した。
「……わかった」
それだけ言って、踵を返そうとする。
「奏さん」
紬希は、思わず呼び止めた。
「……なぜ、そんなに気になるんですか」
聞いてから、少し後悔した。
答えが返ってこないかもしれない。
だが、奏は立ち止まった。
振り返らないまま、静かに言う。
「……気になるから、気になるんだよ」
それだけ言って、今度こそ歩き出した。
――気になるから、気になる……って?
紬希は、廊下に立ち尽くした。
胸の奥で、何かが音を立ててほどけていく。