アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
――気になるから、気になるんだよ。
なぜ咄嗟にあのような言葉を口にしたのだろう。
ふたたび応接間に戻る紬希を見たくなくて書斎に戻った奏は机の上の譜面を一瞥する。シューマンの小品楽曲集。紬希の父親が好んで弾いていたという“子供の情景”……鍵盤に手を伸ばそうとして、やめる。
――あの蓮とかいう男も、紬希の過去を知っているんだよな。
弟の幼なじみだと言っていた。彼がいる場所でピアノは弾きたくない……初めて奏はそのような想いを抱いて戸惑っていた。