アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
他のスタッフには目もくれない姿に、紬希は苦笑しながら小声で応じる。
「近かったです。音が、直接来る感じで」
「それだけか」
「……とても、よかったです。今日の音、一番好きかもしれない」
奏が、きゅっと目を細めた。無表情と言われる彼がこんな風に感情を表に出すのは珍しい。
「そうか」
表情とは裏腹に返事は短かったが、その声は満足そうで、紬希の心の奥が暖かくなる。
――「一番好き」って言ったら、こんな顔をするんだ。
紬希は、その表情を胸の中にそっとしまい込む。