アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
翌日は、公演のない一日だった。予定では東京へ戻ることになっていたが、マネージャーが新幹線のチケットを明日の日付で取っていたことが出発の前日に判明したため、「せっかくなので夫婦でゆっくり過ごしてください」と一日フリーになっている。
「寝ぐせ……」
「はい?」
「音符みたいだ」
客室のベッドでぐっすり眠っていた紬希が朝、起きて顔を出すと、ソファで寝ていた奏が妙なことを口にする。
慌てて洗面台に行って鏡を覗くと、後頭部にちょこんとト音記号のような寝ぐせが跳ねていた。
「やだ、もう」
「いいじゃないか。愉快で」
「愉快じゃないです」
ぷぅ、と頬を膨らませながらブラシとドライヤーを取り出し髪を整えはじめる紬希に、奏が肩を叩く。
「なんですか?」
「梳かしてやる」
「えっ」
「おとなしく座ってろ」
「……あ、はい」