アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
観光地なのに、練習のために来ていた。
その答えが、いかにも奏らしくて、紬希は笑う。
「笑うな」
「すみません。でも、らしいなと思って」
奏が、少し呆れたように息を吐く。それでも歩く速度は緩めなかった。
人通りが増えてきたところで、奏の手が動く。
さりげなく、紬希の手を掴んできた。
「……っ」
驚いて、顔を上げる。
「人が多い」
それだけ言って、前を向いたまま歩き続ける。
――人が多いから、って……。
言い訳だと分かっている。
それでも、繋いだ手を離す気にはなれなかった。
そのまま言葉数少ないまま、ふたりで老舗のベーカリーや土産物店が並ぶ旧軽井沢銀座通りを歩く。ふと、ソフトクリームの店が目に入った。そろそろ昼食の時間だが、奏は当然のように紬希に訊ねる。