アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「奏さん」
「なんだ」

 紬希は、グラスを手すりに置いた。
 そして、奏の腕に、そっとふれる。

「……?」

 奏が、視線を落とす。
 紬希は、奏の顔を見上げる。


「駄目、ですか」

 声が、少し震えていた。はしたないとは思っても、この気持ちをいま伝えたいと紬希は彼の耳元で囁く。
 奏は何も言わなかった。
 ただ、グラスをゆっくりと置いて紬希の方に、向き直る。

「……駄目じゃない」

 低く、静かな声。
 それと同時に、奏の手が紬希の頬にふれた。
 額に額がふれるほど近づき、紬希は瞳を閉じる。

「ただ」

 奏の声は、緊張で震えているようだった。

「これは契約の範囲外になる」
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