アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
――戻れない? ……どこへ。
理由はわかっている。わかっているから、認めたくない。
それでも今は、隣に座る彼女とともに笑っていたかった。
軽井沢から東京へ向かう新幹線の中、紬希は窓の外を見ている。
偶然にも来るときと同じ座席番号だった。来るときとは反対の方向に、同じ景色が流れていく。
同じに見えても違うのだと、奏は意識してしまった。
なんせ、隣に座る紬希の存在が来るときよりも近い。
物理的な距離は同じはずなのに、なぜか近く感じてしまう。
「ふぁ……」
窓から流れる景色を見つめていた紬希が、小さなあくびをした。
昨夜はほとんど眠れなかっただろう。
――俺のせいか。