アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
奏が封じていた欲情を露わにしたのは軽井沢という非日常的な場所で煽ってきた紬希のはずだ。悪かったとは思っていない。
ただ――紬希が疲れていないか、それだけが気がかりではある。
窓の外を向いたまま、奏は彼女のことを案じる。
やがて、紬希の目がとろりと重くなってきた。こくり、こくり、とあたまが傾いている。
そのまま奏の肩に、紬希のあたまがちょこんとふれる。
――無防備な……。
起こすべきだろうか。
自分の肩にかかる彼女の髪が、くすぐったいにもかかわらず、奏は動けずにいる。
肩に伝わってくる紬希の重みとぬくもり。不思議と、不快ではないと気づいてしまったから。
――俺はいつからこんなふうに思うようになったんだ?
最初は、条件を満たすだけの相手だった。
一年間、役割を果たしてくれればそれでいい。そう思っていた。