アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
電話を切った後、奏はしばらくその場に立っていた。
廊下の外に、気配がある。
――紬希か。
会話が聞こえていたのだろう。足音が、遠ざかっていく。
奏は動かなかった。動けなかった。
追いかけようとしたが……やめた。
――何を言えばいい? 心配するな? 君のせいじゃない?
どちらでもない気がする。言葉にした瞬間に、崩れてしまいそうな感覚に陥り、奏は自嘲する。
窓の外に目を向ける。秋分を過ぎ、すっかり日没が早まりつつある夜の屋敷の庭は、暗く静まり返っていた。
実際スポンサーの件は、大した問題ではない。親族が運営している財団の圧力も、週刊誌に情報を載せたマスコミの動向も、すべてひとりで把握して対処できる。
それよりも気がかりなのは、紬希のことだ。